解決事例・コラム
2026/10/06

重機に巻き込まれた・挟まれた労災事故では誰に責任を問えるのか

建設現場や工場、倉庫などでは、重機や大型機械に身体を巻き込まれたり、機械と資材との間に挟まれたりする重大な労災事故が発生することがあります。

このような事故では、労災保険から治療費や休業補償などを受けられる可能性があります。しかし、労災保険から支給される給付だけでは、精神的苦痛に対する慰謝料など、すべての損害が補償されるわけではありません。

事故の原因が、会社による安全対策の不足や不適切な作業指示にある場合には、勤務先や元請会社などに対する損害賠償請求を検討できることがあります。

この記事では、重機による巻き込まれ・挟まれ事故について、責任を負う可能性のある相手、会社の安全配慮義務、被災した労働者にも不注意がある場合の取扱い、請求できる損害などを解説します。

重機による巻き込まれ・挟まれ事故の具体例

重機や機械による事故には、例えば次のようなものがあります。

  • ショベルカーやクレーンの旋回部分と構造物との間に挟まれた
  • フォークリフトと壁、荷物又は別の車両との間に挟まれた
  • ベルトコンベアやローラーに手や衣服を巻き込まれた
  • 全周回転機や杭打ち機の可動部分に手指を挟まれた
  • 機械の点検、清掃又は詰まりの除去中に機械が作動した
  • 吊り荷や資材が動き、重機又は構造物との間に身体を挟まれた
  • 誘導員が配置されていない状態で重機が後退し、作業員と接触した
  • 運転者が作業員の存在に気付かないまま重機を動かした

巻き込まれ・挟まれ事故では、手指の切断や骨折、神経損傷、脊髄損傷などの重大な傷害が生じ、治療後も機能障害や痛みが残ることがあります。死亡事故につながることも少なくありません。

労災保険を利用できる可能性がある

業務中に重機に巻き込まれたり挟まれたりした場合、原則として業務災害に該当し、労災保険の対象となります。

労災保険では、主に次のような給付を受けられる可能性があります。

  • 治療費に対応する療養補償給付
  • 仕事を休んだ期間に対する休業補償給付
  • 後遺症が残った場合の障害補償給付
  • 介護が必要になった場合の介護補償給付
  • 死亡事故の場合の遺族補償給付及び葬祭料

労働者自身に不注意があったとしても、それだけで労災保険を利用できなくなるわけではありません。また、会社が労災申請に協力しない場合でも、労働者本人又は遺族から労働基準監督署へ申請することができます。

労災保険だけでは損害のすべてが補償されるとは限らない

労災保険は被災した労働者の生活を支える重要な制度ですが、事故によって生じた損害のすべてを補償する制度ではありません。

例えば、労災保険から精神的苦痛に対する慰謝料は支給されません。また、休業による減収や後遺障害による将来の減収についても、労災給付だけでは損害の全額が補われないことがあります。

そのため、事故について会社などに法的責任が認められる場合には、労災給付とは別に損害賠償を請求することが考えられます。ただし、同じ性質の損害について労災給付と損害賠償を二重に受け取ることはできず、受給した労災給付との調整が必要です。

勤務先が責任を負う場合

会社は、労働者が生命・身体の安全を確保しながら働けるよう、必要な配慮をする義務を負っています。これを安全配慮義務といいます。

重機事故に関しては、会社に次のような問題がなかったかが重要になります。

危険な場所への立入りを防止していたか

重機の旋回範囲や可動部分など、作業員が立ち入ると危険な場所について、立入禁止措置や柵の設置、監視員の配置などが必要になることがあります。

危険区域が明確に区分されておらず、作業員が重機の近くで作業せざるを得なかった場合には、安全対策が不十分であった可能性があります。

誘導員や合図を行う者を配置していたか

運転者から作業員を確認しにくい場合や、重機と作業員が同じ場所で作業する場合には、誘導員を配置し、合図の方法を統一することが重要です。

誘導員がいなかった、誰の合図で動かすのか決まっていなかった、作業員の退避を確認せず重機を動かしたという事情は、会社の責任を判断するうえで重要です。

機械を確実に停止できる状態だったか

機械の調整、清掃、点検、修理又は詰まりの除去を行う際には、原則として運転を停止し、誤作動を防止する措置を講じる必要があります。

作業員の手が危険部分に入る可能性があるのに機械を動かしたまま作業させていた場合や、作業員自身がすぐに停止できる装置がなかった場合には、安全管理上の問題が疑われます。

作業手順が定められていたか

重機を使用する作業では、作業方法、作業員の配置、重機を動かすタイミング、合図、緊急停止の方法などを具体的に定めておく必要があります。

現場任せの作業が常態化していた、口頭の指示だけで作業が行われていた、危険な方法が黙認されていた場合には、会社が十分な作業手順を整備していなかった可能性があります。

十分な教育・訓練を行っていたか

会社には、重機や機械の危険性、禁止事項、事故を防ぐための作業方法などを労働者に教育することが求められます。

資格や特別教育が必要な作業を無資格者に行わせていた場合はもちろん、形式的な説明だけで、実際の作業に即した安全教育をしていなかった場合にも問題となり得ます。

無理な人員配置や作業計画ではなかったか

人員不足、過密な工程、狭い作業場所、長時間労働などによって、安全な作業が困難になっていなかったかも検討されます。

作業員が危険を避けるための時間や場所を確保できなかった場合、単に被災者の不注意として片付けることはできません。

元請会社にも責任を問える場合がある

建設現場では、被災した作業員の直接の勤務先が下請会社であっても、元請会社に対する損害賠償請求を検討できる場合があります。

例えば、元請会社が現場全体の作業工程を管理し、重機の配置や作業方法を決定していた場合、元請会社の職長が具体的な指示や合図をしていた場合、複数の業者が混在する作業場所の安全管理を元請会社が担っていた場合などです。

元請会社が責任を負うかどうかは、契約書上の立場だけでなく、実際に誰が現場を指揮し、危険を管理できる立場にあったかによって判断されます。

事故によっては、勤務先、元請会社、重機の運転者、その使用者など、複数の者が責任を負う可能性があります。

被災した労働者にも不注意がある場合

重機事故では、会社から「作業員が勝手に重機へ近づいた」「危険な場所に手を入れた」「手順を守らなかった」などと主張されることがあります。

しかし、被災者に一定の不注意があったとしても、直ちに会社の責任が否定されるわけではありません。

事故が起きた背景に、停止装置がない、危険区域が区分されていない、合図が統一されていない、安全教育が不十分である、現場で危険な作業方法が常態化していたといった事情があれば、会社側の安全管理上の責任が認められる可能性があります。

一方で、損害賠償請求では、被災者の不注意の程度に応じて賠償額が減額されることがあります。これを過失相殺といいます。

過失割合は、結果だけで決まるものではありません。作業手順、指揮命令の状況、教育内容、事故を回避できる設備の有無、作業環境などを具体的に検討する必要があります。

請求できる可能性がある損害

会社などの責任が認められる場合には、主に次の損害を請求できる可能性があります。

  • 治療費、入院雑費、通院交通費
  • 休業によって生じた減収
  • 入通院慰謝料
  • 後遺障害慰謝料
  • 後遺障害による逸失利益
  • 将来の治療費、装具費、介護費
  • 死亡事故の場合の死亡慰謝料、逸失利益、葬儀費用
  • 一定の場合の弁護士費用相当額

実際の請求では、労災保険から支給された金額との調整、被災者の過失割合、後遺障害の内容などを踏まえて損害額を計算します。

事故直後から残しておきたい証拠

重機事故の責任を明らかにするには、事故当時の現場状況を示す証拠が重要です。可能であれば、次の資料を確保しておくことが望ましいでしょう。

  • 事故現場、重機、機械、資材及び周囲の写真や動画
  • 重機と作業員の位置関係が分かる図面
  • 作業手順書、施工計画書、リスクアセスメント資料
  • 朝礼資料、安全教育記録、資格・講習の記録
  • 運転日報、作業日報、業務日誌
  • 事故を目撃した人の氏名と連絡先
  • 会社や元請会社とのメール、LINE、録音
  • 労働基準監督署へ提出された事故報告書
  • 診療録、画像検査結果、診断書

事故後に現場の状況や機械の配置が変更されることがあります。そのため、できるだけ早い段階で証拠を保全することが大切です。

示談書に署名する前に確認が必要

事故後、会社から見舞金や解決金の支払いを提示され、示談書への署名を求められることがあります。

示談書に「今後一切請求しない」などの条項が含まれていると、後から後遺障害が判明しても追加請求が難しくなる可能性があります。治療中又は症状固定前に示談を求められた場合には、特に慎重な検討が必要です。

会社から書面を提示された場合には、署名する前に弁護士へ相談することをおすすめします。

重機事故は早期の証拠収集が重要です

重機による巻き込まれ・挟まれ事故では、会社が作成した事故報告書だけを見ると、被災者の不注意が事故原因であるかのように整理されていることがあります。

しかし、実際には、安全装置の不足、不適切な人員配置、教育不足、指示系統の混乱、危険な作業方法の常態化など、会社側の安全管理に原因があるケースもあります。

誰が責任を負うのか、労災保険とは別にどの程度の損害賠償を請求できるのかを判断するためには、事故直後から現場状況や作業実態を確認することが重要です。

当事務所では、重機による巻き込まれ・挟まれ事故を含む労災事故について、労災給付、後遺障害、会社や元請会社に対する損害賠償請求を総合的に検討します。事故の責任や今後の対応についてお悩みの方は、お早めにご相談ください。

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